「緊急事態宣言」解除後の大学において安全に学生相談を行うために
【新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応について 第5報】
5月末まで延長されていた政府の「緊急事態宣言」ですが、予定よりも早く5月14日に39県で、21日には関西3府県で、残る首都圏と北海道も25日に解除されました。それに伴い、各大学等では学生の登校再開後に向けたガイドラインの策定が進んでおり、それぞれの学生相談機関においても今後の活動指針を大学の対策部門と擦り合せていくことが急務となっています。
遠隔相談の導入が喫緊の課題であった春から数ヶ月のうちに、次は対面相談再開の指針を作る課題と取り組むという変化のスピードに対して、不安と疲労を感じている方も少なくないと思います。次々と新たな状況への適応を迫られているのは、学生も教職員も同様であり、これから徐々に、対応が必要な心の問題が顕在化してくる時期が到来することが予想されます。
本学会では、会員のみなさまが安心して学生相談活動を行えるように、これから前期末に向けて参考となる情報を、以下に共有させていただきます。各大学等の状況に合わせて参照し、活用してください。
1.対面相談再開に向けて
政府は、新型コロナウイルス感染症の拡大が抑制されても、もとの生活に戻るわけではなく、第2波、第3波の到来を防止するために、「新しい生活様式」を浸透させていくことが必要であると示しています。同様に、学生の通学が再開されても、私たちは対面相談を基本とするもとの状態に復帰するのではなく、「新しい学生相談様式」として、対面と遠隔のハイブリッドを実現していく必要があると考えられます。多くの大学で遠隔授業が継続実施される状況に鑑み、当分は「遠隔」相談を基本に置きながら、どの段階で、どのような対象において「対面」相談を適応とするのか、指針を作っておくことが役に立ちます。
■各大学の資料
札幌学院大学「入構制限一部解除後の学生相談室運営について」(pdf)
「学生相談室業務活動指針」(pdf)
甲南大学 「新型コロナウイルス(COVID-19)感染症拡大防止のための学生相談活動の方針」(pdf)
「学生のキャンパス利用制限緩和後の学生相談室開室マニュアル」(pdf)
■海外の資料
Cooper, S. & Mosley, A. (Valparaiso University): Promoting Student and Staff Health and Safety within Counseling Services in the Context of COVID-19
「学生相談機関におけるCOVID-19を踏まえた学生とスタッフの健康と安全について」(日本語訳)
*アメリカ、インディアナ州のヴァルパライソ大学カウンセリングセンター所長で元APA理事のStewart Cooperらが春学期末の2020年5月に作成した文書。APA(アメリカ心理学会)、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)、WHO(世界保健機構)などが出しているコロナ対応関連資料を学生相談機関向けに抜粋・編集したもので、わが国の学生相談機関においてもすぐに役立つ内容となっている。今回、著者の許諾を得て邦訳した。
ACHA(American College Health Association)Guidelines:Considerations for Reopening Institution of Higher Education in the COVID-19 Era
*アメリカ大学保健協会が3月に策定した「Preparing for COVID-19」の次に5月7日に公開された最新のガイドライン。学生の保健管理全般についての20ページにわたるガイドラインであり、メンタルヘルスに関してはp.8-9に記載されている。
AUCCCD(Association for University and College Counseling Center Directors):COVID-19 and Safely Delivering Mental Health Services As Campuses Re-open
*アメリカ大学学生相談機関ディレクターズ会議による声明。キャンパス再開にあたって学生相談機関が留意すべき5つのポイントが示されている。
APA(American Psychological Association): INFORMED CONSENT FOR IN-PERSON SERVICES DURING COVID-19 PUBLIC HEALTH CRISIS
*学生相談機関用ではないが、コロナウイルス感染症の影響下で対面相談を行う際の同意書のサンプルがダウンロードできる。
2.遠隔授業実施下における学生と教職員へのサポートについて
遠隔授業の実施や課外活動の制限などの長期化が見込まれ、暑さも増すこれからの時期、学生も教職員も疲労が蓄積し、心身の不調を来すリスクが高まります。学生相談機関としてどのような予防的支援の活動が可能かを検討することも必要です。ただ対面再開を待つのではなく、オンラインでの積極的な情報発信の工夫が期待されます。
■各大学の資料
東京大学「教職員のみなさまへ~新型コロナ感染防止対策に伴う、心理面の対応について~」http://dcs.adm.u-tokyo.ac.jp/scc/scc-info/1189/
札幌学院大学「教職員のみなさまへ 新型コロナ感染防止に関連する学生指導の留意点と自身のストレス対策について」(pdf)
甲南大学 「コロナストレス下の大学で教職員が知っておきたいこと」(pdf)
学生相談室コロナウイルス特設サイト
■海外の資料
THE CHRONICLE OF HIGHER EDUCATION: Coping With Coronavirus/How faculty members can support students in traumatic times
*アメリカの高等教育年報。28ページの写真入り論考集で、「オンライン学習への移行に伴うストレスをやわらげ、学生を支えるための10のヒント」「心理的な危機にある学生をいかにサポートするか」などの教員向けの助言や提案が掲載されている。
3.学生相談に携わるスタッフの安心と安全について
対面相談の再開は、学生相談に携わるスタッフにとっても新型感染症の感染のリスクを負う機会の増大を意味します。活動にあたっては、公衆衛生の観点から万全の対策を行うことは当然であるとともに、自身や家族に健康上の不安があるなど個別の事情を抱えている場合は、管理者と適切なコミュニケーションを行って、リモートワークでの活動が保証されることが必要です。1.で挙げたCooper&Mosleyの文献をはじめ、以下のような指針も参考になります。
■海外の資料
Voice Ability:General guidelines for working during coronavirus
*Voice Ability というイギリスの福祉団体が職員向けに出している就業ガイドラインが公開されている。
新型コロナウイルス感染症拡大の事態は刻々と変化しており、ここに挙げた各大学や機関が作成した資料も、それに合わせて更新されます。参考にされる際には、できるだけ最新版を各自でご確認ください。また、このほかにも本学会で共有できる情報がありましたら、広報報員会 koho@gakuseisodan.com までぜひお寄せ下さい。
日本学生相談学会常任理事会
「学生相談における遠隔相談導入に関する検討チーム」 高石恭子(甲南大学)、高野明(東京大学)、斉藤美香(札幌学院大学)、太田裕一(静岡大学)、安住伸子(神戸女学院大学)、岩田淳子(成蹊大学)