新しい季節の始まりに寄せて
理事長 高野 明(東京大学)
今年も別れと出会いの季節がめぐってきました。皆さまも、それぞれの学校で社会に出て行く学生を送り出し、別れにともなう様々な感情の余韻に浸る間もなく、新入生を迎え入れ、新たな出会いを重ねていらっしゃるのではないかと思います。近年は、桜の花が散るタイミングが早くなり、満開の桜で新入生を迎えるのが難しくなってしまって、地球温暖化の影響を身近なところで感じようになりましたね…と書こうと思っていたのですが、今年の開花が遅れたことで、少し拍子抜けしています。自然は本当に気まぐれなものですね。
まずはじめに、今年1月に発生した能登半島地震で被災された皆さまに、心からのお見舞いを申し上げます。本学会では、この震災を受けて、「学生相談仲間による『能登半島地震』相互支援」と題し、被災地の皆様への支援活動を開始しました。3月末には、被災地のカウンセラーの方々を対象として、前理事長の高石恭子先生(甲南大学)による「震災後のこころの復興について」というオンライン研修会の開催を支援いたしました。このような取り組みが、被災地域の会員の皆さまと、学生をはじめ大学関係者への応援と支えになればと願っております。今後も、復興の長いプロセスに寄り添っていけるよう、学会としての相互支援の取り組みを続けて参ります。
今期の理事会は、早くも任期の約半分を終えて、折り返し地点に立っています。私が、就任時に掲げさせていただいた、持続可能な学会運営体制の構築と、学生相談の活動モデルの整理については、引き続き取り組んで参ります。後者に関しては、今期の間に何らかの形でその成果を公表することを計画しています。学生相談の専門性を再確認し、その使命を改めて明確に示すことで、すべての学生が学生生活を十分に享受できるような学生相談のあり方を提示できたらと考えております。
さて、昨年5月には、新型コロナの感染症法上の分類が第5類に移行したこともあり、皆さまの学校でも、キャンパスにおける活動制限が撤廃され、対面中心のキャンパス運営体制に戻っているのではないかと思います。感染症がなくなったというわけではありませんが、社会全体がようやくポストコロナと言える段階に入ったと考えられます。多くの学生にとって、コロナが過去のものになっていく一方で、身近な人をコロナで亡くしたり、外出自粛の生活の中で孤立を深めてしまったりと、現在もその影響に苦しんでいる学生もいます。そもそも、私たち教職員も含めて全員が、コロナ禍の影響を何かしら受けた当事者であるという側面があるわけですが、時間が経過していく中で、それぞれのコロナ禍体験は個別化され、その体験の受け止めも多様になってきています。ポストコロナの新たな世界にすんなりと入っていく学生もいれば、コロナ禍前とはどこかが違う新しい世界にどう適応していくかが課題になる学生もいます。今年の新入生の多くは、コロナ禍が始まった時はまだ中学生だったという学生達で、大学生の時にコロナ禍が始まった世代とも異なる体験をし、また、異なる成長のプロセスを歩んでいるはずです。ポストコロナの学生相談においても、個々の学生の多様な悩みに丁寧に向き合い、その歩みを支える取り組みを積み重ねながら、学校コミュニティに共通する課題を見つけ出し、その改善に向けて提言や働きかけを行っていくことが重要であることには変わりありません。
皆さまも、それぞれの現場で、個に眼差しを向けつつ、個を支えるキャンパス作りに貢献するために、日々奮闘されていることと思います。新年度も、学生相談をさらに盛り上げ、学生と大学を支える基盤を固めていくために、皆さまと共に歩んでいければと考えております。引き続き、変わらぬご支援、ご協力をお願いいたします。