青春のきらめき、ふぞろいだからこそ(理事長メッセージ)

青春のきらめき、ふぞろいだからこそ
〜2016年、学生相談が支える「君たちの旅」〜
日本学生相談学会理事長 齋藤憲司

学生相談ならびに高等教育に関わるみなさま、謹んで新春のごあいさつを申し上げます。
各キャンパスで学ぶ学生たちが充実した日々を送れますよう、そして教職員にとっても良き1年にしていけますよう、ごいっしょに進んでまいりましょう。本年もどうぞよろしくおねがいいたします。

さて、今回は「新春」ということばに惹かれて、少々気恥ずかしいタイトルを掲げてしまいました。吉田拓郎氏のデビューアルバムが『青春の詩』と銘打った作品であったことは昨春に記したとおりですが、思い起こせば、私たちの世代は(50代とその前後ですね)、「青春」的フレーズがヒット曲の歌詞に当たり前のように登場し、「青春もの」と呼ばれる一連のテレビドラマが花盛りだった時代をくぐり抜けてきたように思います。いまでは堂々と口に出すのがためらわれるようなこの言葉、もし相談に訪れる学生たちに「くよくよしていたら勿体ないよ。なんてたって青春真っ盛りなんだから!」などと口走ったら最後、彼•彼女は苦笑いさえも浮かべずに面接室を立ち去っていくのでは、と思ってしまうほどです。
こんな連想が湧いたのは、本年5月に第34回大会を開催してくださる成蹊大学が東京•吉祥寺にキャンパスを構えておられることが1つの誘因となっています。高校生の頃に欠かさず視聴していたドラマ『俺たちの旅』(日本テレビ系)の舞台が吉祥寺で、若者が闊歩する垢抜けた街並や恋人たちが囁く井の頭公園の映像を凝視しては、“中央線沿線で下宿生活をしたいなあ‥”というあこがれを抱いたものでした。そして当時のクラスメイトと「オレこそがカースケ!」「むしろオメダでしょう」「いやいやグズ六がぴったり」「浪人してワカメかな」と、登場人物になぞらえて自分たちのこれからの青春模様を勝手にイメージしていたものでした。それまでの青春ものがサッカーやラグビー、あるいは剣道に柔道というある種明快な目的性を主軸に据えていたのに対して、『俺たちの旅』は一種の群像劇であって、それも決してヒーローにはなりきれないところが、時代の雰囲気にも合致していたのだと思います。自由へのあこがれ、家族関係の囚われ、学歴へのこだわり、社会との軋轢‥、それぞれの事情を抱えつつ、わざわざ苦労の多い状況へはまり込んでいくことになる、そんな真正直でやさしすぎる彼らの葛藤を、小椋 佳氏の楽曲が柔らかく包む展開でした。
そう言えば、若者群像を描いたテレビドラマの代表作として忘れてはならない『ふぞろいの林檎たち』(TBS系)、その主人公(のひとり)仲手川良雄を演じた中井貴一さんも成蹊大学のご出身者でおられますね。こちらはすでに東京での学生生活が日常となっていた頃(中央線沿線には住めませんでしたが‥)だったのでかなり落ち着いて見ていた気がするのですが、それでも新宿副都心の高層ビル群を背景にリンゴが空を舞う象徴的な風景にサザンオールスターズのヒット曲がかぶさってくると、なんともやるせない、切ない気分になったことを思い出します。筋立てとしてはより明確に学歴社会の歪みを基調に据えながらも、3人の男子学生と3人の女子学生の個性がひときわ際立ち、さらにこの6人を取り巻く家族や周囲があまりに独特で、あたかもジグソーパスルの断片がきらきら舞っていくのだけどなかなか1つの絵には納まっていかない、そんなもどかしい物語の連続でした。

みなさまもご承知のように、今春4月より「障害者差別解消法」が施行され、各大学等においても差別的取扱いの禁止と合理的配慮の不提供の禁止が必須となります。そのため、学内制度や組織の改編を含む大きなうねりの中で、学生相談に関わるみなさまも学内外を奔走しておられるのではないかと拝察しています。もちろんこの機を活用して、これまでどこか及び腰であった我が国の障害学生支援を可能な限り推し進めていくことは重要なのですが、それは、ひとりひとりのニーズに応じて丁寧に対応しつつ各部署との連携•恊働を展開してきた学生相談とのハーモニーでいっそう実り多いものになっていくと言って良いでしょう。いまこそ、いわゆるユニバーサル•デザインという理念のもと、新たに学生相談•学生支援の今日的な(あるいは近未来的な)あり方を構築していく時なのではないかという気がしています。
『ふぞろい』だからこそ、独自の輝きを発することができるはず、そこにはかけがえのない大切なものがある、私たちはそう信じていますし、障害のあるなしにかかわらず/障害があるならばその特性を尊重して、時と状況に応じた最善のサポートを考慮していくこと、それはまさに学生相談のスピリッツそのものでもあるだろうと思います。そして同時に、昨今のあわただしい情勢の中で、組織や社会の変動に巻き込まれて、学生たちへのまなざしがおろそかにならないようにしたいと願います。私たちの世代が自ら辿る『俺たちの旅』はいまだ道半ばかもしれませんが、学生ひとりひとりのいまと未来を見つめ、『君たちの旅』のひとつひとつの道のりを支える私たちであるために、これからも学生相談の活動と機能を洗練•充実させていきたいと思っています。

今期の役員一同の任期もいよいよ残すところ、あと5ヶ月ほどとなりました。常任理事会および理事会、そして具体と実務にあたる9つの委員会と事務局では、これまでの成果をもとに良い形でまとめと引き継ぎを行うべく、作業の最終段階に入りつつあります。「ふぞろい」なようでまとまりもある、そんな「私たちの旅」はいましばし続きますゆえ、どうぞ変わらぬご支援とご助言をよろしくお願いいたします。そして、5月に東京•吉祥寺にて開催される第34回大会にて、近々に実施される第10期役員選挙に基づく次期執行部のみなさんとごいっしょに、お目にかかりましょう。

=2016年(平成28年)1月4日:御用始めの日に=

<資料>
鎌田敏夫他(脚本)・斎藤光正他(監督)1975-1976 『俺たちの旅』(ユニオン映画製作•日本テレビ系放送)
山田太一(脚本)・鴨下真一•井上靖央他(演出)1983 『ふぞろいの林檎たち』(TBS系制作•放送)

<理事長動向(2015年(平成27年)7月〜12月)>
〜本学会の行事や会議に加えて、学生相談に関わる行事•企画等に本学会での公的な立場を表明して関わったものも記してあります。〜
7月18日:第3回常任理事会:第33回大会(広島修道大学)の成果をもとに、今期3年目の活動が本格化。
7月末:第53回全国学生相談研修会の申込状況を確認、今回も定員を超えて有り難く感じつつ、事務局の苦労を思う。
8月8日〜9日:第41回学生相談セミナー:今回は所属校のオープンキャンパスと重なり、高校生等に対応するピアサポーター応援のため不参加。そこで夜に訪問してすだちとビーチボール持参でバレー大会を仕掛ける。参加者の皆さん、お騒がせしました。
(8月:今夏も東日本大震災復興•相互支援のおたよりを当該地区の会員の皆さまに、理事長名で発送。さっそくご依頼をいただき、対応を考慮していくことに。)
(8月:「学生相談ニュース」No.110に第33回大会シンポジウム「高等教育における学生相談•支援の位置づけーここまで、これからー」への誌上コメントを掲載。また準備委員長の“またやっちゃう?”という名セリフに改めて感謝しつつ、次回以降の開催校に想いを馳せる。)
9月5日:第4回常任理事会:継続活動の充実と引継ぎを意識した発展的な審議と意見交換。今期初めて会議時間が3時間かからず、課題を着実にこなしてきたことを実感する(早めに慰労会!)。
9月9日〜10日:第53回全国大学保健管理研究集会に「学生相談•障害学生支援」の分科会が設けられ、本学会のガイドラインも考慮しつつ、自殺防止に係る一連の活動を整理した研究発表。
10月3日:第5回常任理事会:喫緊課題ガイドラインの3冊目は次年度以降を見据えて知見を集積していくことに。
(同日):第53回全国学生相談研修会講師打ち合わせ会:学会の諸活動と研修会開催の連働を改めて意識しながら、全国から事前準備に集ってくださった先生方に感謝。
(10月17日:本学会初の地方開催となる1DAYセミナーへの申込が遅れ、「発達障害と学生相談」というテーマの引力もあってか定員超過で参加できず。今後の地方開催の可能性にも期待。)
10月23日:第53回全国学生相談研修会の第4回準備委員会:プログラム内容とご参加くださる方々の要望を考慮しながら、3日間の流れをイメージして運営の詳細をツメていく。
10月27日:第53回全国学生相談研修会の会場打ち合わせ:会計委員長、事務局とともに、フォーラムの方々と詳細を確認。また、懇親会に初めて使用する会場にて料理と進行を思案する。
11月15日〜17日:第53回全国学生相談研修会:まず前泊して準備に専念。初日には、文科省と(独)日本学生支援機構のご後援に感謝しつつ、600名規模の開会式をつつがなく、そして“青年期のいま”を描写してくださった土井隆義先生の特別講演に大いにインスピレーションを受ける。3日間を通して、分科会や小講義が順調かつ中味濃く進行していく様子を安心して見守っている。理事会を開催し、任期も残り半年となって残された課題を確認。
11月26日:東北地区のある大学にて、自殺防止に係る講演。日頃の学生支援をていねいに振り返ってご質問くださる教職員の皆さまに感激しつつ熱心な意見交換。
12月7日:首都圏のある大学の論文審査会に参加。学生相談に係る研究の意義を思う。
12月10日〜11日:第37回全国大学メンタルヘルス研究会に参加し、学会化•法人化を応援すべく、また同じ大学に所属する会長先生にエールを送るべく、「学生相談とメンタルヘルスの連携•恊働」に係る研究発表を行なう。
12月12日:第6回常任理事会:理事会の成果をもとに、課題をひとつずつ落着させていく。公認心理師法案の成立等、変動する情勢の中で学生相談の立ち位置を再考しつつ(終了後は忘年会)。
12月13日:大学カウンセラー資格認定委員会/学生支援士資格認定委員会:両資格の書類を確認しながら、自らの実践を見つめて向上しようとする申請者の方々の真摯な想いに胸が高鳴る。
12月21日:首都圏のある大学のケースカンファレンスに参加。丁寧な個別相談と期に応じた連携の意義とともに、大学ごと/キャンパスごとの学生相談の特性に想いを馳せる。
〜ここに記した企画•行事以外にも、本学会としての活動は多岐に及んでいますので、ぜひ「学生相談研究」掲載の議事要録や「学生相談ニュース」の紹介記事をご参照頂ければと思います。〜

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