~ 今こそ「学生相談×学生支援」の旗を振ろう! ~
日本学生相談学会理事長 齋藤 憲司
2017年が幕を開けました。全国各地で学生相談に従事する皆さま、どのような新年をお迎えでしょうか。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
洋の東西を問わず、去る年を惜しみつつ、来る年に願いを込める、そんな各地の風景に時々不思議な気持ちになることがあります。地球の自転は絶え間なく、365日とわずかなプラスαの時間を持って太陽の周りを巡り続ける、その始点を便宜的に定めることで、私たちはたくさんの物語を紡いできました。年次の巡りにメリハリをつける四季の恵みにも彩られながら、新しい周回の間に、学生たちはどのような歩みを示し、見守る教職員はどのような関わりを試みることになるでしょうか。
柄にもなく壮大なイメージを思い浮かべたのは、今年の中心行事である第35回大会を愛知県の中部大学にて開催していただくことに影響されているかもしれません。今を遡ること400年余り、群雄割拠の戦国大名はやがて全国統一に向かって知略と武闘の限りを尽くますが、この激動の時代を収束させていった信長・秀吉・家康を中心に、数多くの武将がこの地域で生まれ育ち、やがて歴史に名を残す存在となっていきます。ある時代のある地域に、傑出した人材が集中する事態が生じるのはなぜなのでしょうか。
さて、大学・短大・高専等の高等教育機関をめぐっては、特に経営面・運営面における厳しさから、様々な変化と改革を余儀なくされている現状にあります。その影響は学生相談体制や学生支援全般にも及んで、種々の制約の中でどのように活動を展開していくべきか、おそらく全国各地で思案と模索が続いているのではと拝察しています。もちろん戦国時代になぞらえるつもりはまったくないのですが、学生たちを守り、その成長と回復を支援していくために、何がしかの葛藤や軋轢に直面しつつも、学生相談と学生支援の理念と体制を守り抜いていく必要性を感じることはあるのではないかと思います。少し勇ましいことを言えば、今こそ「学生相談×学生支援」の旗を掲げ、大きく振りかざしていくことも、私たちに課せられた任務なのではないかと感じています。ただ、それは決して声高に叫んだり、仮想敵国を批判したりすることではないでしょう。世界のあらゆるところで、物事を単純化して白黒をはっきりとさせるような風潮が強まっていく危惧を感じますが、そんな時代状況の中でも、あくまで私たちの強みは1つ1つの面接あるいは対話であり、その細やかなコミュニケーションのあり様を磨きあげることで、こころが揺れる学生たちを守り、彼・彼女の本来の成長軌道を見つけ、納得しあえる和解と将来像を共有しようと試みます。その過程において垣間見える様々な物語には、大河ドラマにも負けない深みと広がりがあるだろうと思います。少々言い古された理念ではありますが、学生たちの自己実現がやがて「静かなる革命」に結びついていくことを信じて、心理学の知見を借りれば、いわゆる“複雑性”への「耐性(tolerance)」を保持して、何かを簡単に決め付けることなく日々の面接や対応に臨んでいくことになります。
私の在籍する大学では、大隈良典先生がノーベル医学・生理学賞を受賞され、基礎研究の重要性をお示しくださったことが多くの研究者の励みになっています。そう言えば1〜2年前に、学内のある会合にて、やはり素晴らしい研究を遂行なさっておられる先生が「そろそろ齋藤さんもノーベル・カウンセリング賞かな…」と話しかけてくださったことがありました。当然ながら、未来永劫にわたって(地球が何万回太陽を廻っても)ありえないことですが、学生ひとりひとりを支えることで高等教育に貢献するあり方を認めてくださっているように感じられて、「またまた、そんな…」と笑い合いながら、とてもうれしく思ったことがありました。私たち学生相談・学生支援に従事する者にとって、ヒーローや主人公は常に学生たちであり、同時に、学生を育てる教職員の方々でもありますが、「学生相談×学生支援」の旗を大きく振ることで、時に応援団としてこころの中でエールを送り、時に安心の拠点としてのプレゼンスを示し、時に支援の実績を集積した成果を発信していく、そのような気概を持ってこの1年に臨みたいと思います。サッカーの世界では、よく「勝者のメンタリティ」と称される心持ちや構えの重要性が語られます。世界的には「サッカーとは最後にドイツ代表が勝つスポーツ」(イングランド(元)代表のガリー・リネカー氏が語ったとされる)という嘆息に、我が国では最近の鹿島アントラーズの見事な快進撃に見られるあり方に、わずかな差が大きな結果の違いにつながる事象を見出します。「学生相談×学生支援」の現場でも、ほんのわずかかも知れない表情や言葉づかいの相違から、あるいは理論や技法の着実な進歩や洗練化によって、そして何よりも揺るがない理念と姿勢を土台に据えて、総体としての「学生相談のメンタリティ」を築いていければと願っています。そして、組織的・制度的にも学生相談・学生支援の重要性とスタッフの立場強化を臆せず適切に発信していけるようになればと思います。
昨年は、「ICP2016(第31回国際心理学会議)」と関連企画を通じて「学生相談のJapan Way」を探索していきました。その成果は年末に発行された『学生相談ニュース』に掲載され、さらに今後は順次論文化されることが期待されています。本年はまず、今季のテーマ「高めよう!学生相談力×学生支援力」をより具現化していくために、3月の「学生相談セミナー」にて、言わば全国行脚の“フラッグ・ツアー”の第一歩のような気持ちで、“学生相談力・学生支援力とは何か(その相違と共通点)”、そして“学生相談×学生支援の協働から生じる新たな可能性”について語ってみたいと思っています。相互に「個のちから」を伸ばし合っていく試みを重奏的に繰り広げつつ、もっとも身近で大切な連携・恊働のパートナーである「学生相談×学生支援」の相互作用で連働しながら、さらなるネットワークを紡いでいく礎になればと思います。そして、5月には3日間にわたって学生相談の「中部」となる第35回大会にて、各種の研究発表とワークショップやシンポジウム等を通じて「学生相談×学生支援」のこれからを見渡していきましょう。奇しくも年末にノーベル文学賞を受賞されたボブ・ディラン氏が初期の名曲「時代は変わる」で唄ったように、“今は最後尾の者がやがて先頭に立つ”ことがあり得るのが歴史の教訓であるとすれば、学生対応の日々のセッションに注力しつつも、高等教育の中で大局的に何が起きているのかをじっくりと見定めていきたいと思います。
(平成29(2017)年1月4日:御用始めの日に)